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【注意】
・野沢くん推しが野沢くんの名前出た記念に書いた
・言葉通り山なし落ちなし意味なし
・家族捏造
・妹が出張ります
・野沢くんが迷子
・いい加減な性知識
・ネットスラング的な表現があります
【妹】
・野沢彩
鴎台高校1-G
身長149cm
体重44kg
好きな食べ物 豚汁
最近の悩み なぜ兄のように背が伸びないのか
腐女子
一、
藍色の、光るスマホを握りしめる。画面に照らし出された少女の顔はどこか嫌悪に満ちていて、そうでありながらどこか歓喜に満ちた顔をしている。口角が上がるのを抑えきれないといった様子で、空いた片方の手で口に蓋をする。
「無料エロ動画」「家族バレ」「スレンダー」……。光る板に踊る文字は決して子供が見ては良いものではない。彩は画面をタップして、その一つを再生する。豊満なボディをした女性が一糸纏わぬ姿で男の上でよがっている。
…………なにこれ。世の男どもはこんなのが良いわけ?
私は腐女子だし、もう15だし、なにより腐女子だし、ベッドシーンの知識は周りの子よりもある方だと思う。それにしても、それにしてもだ。生の人間同士のする生殖行為のなんとグロテスクなことよ。BL漫画のような柔らかさが感じられない。若干胸につかえる感覚を覚えながらも動画のURLを自分のスマホに転送して、サムネイルを撮影する。
……私、なにやってんだろ。バレーボールが転がる兄の部屋で独り言ちた。
二、
鴎台高校3年、男子バレーボール部のWS、野沢出は私の兄だ。軽めの口調でどの後輩にも等しく優しい。なんというか、話しかけやすい先輩。それが、学校で見る兄の印象だ。
もちろん家でも私に適度に優しいし、面倒見は良い方なんだと思う。大きな喧嘩もしたことがないし、漫画の貸し借りをする程度にはコミュニケーションをとっている。仲は悪くない、と思う。
が、しかしそんな兄が私にとってコンプレックスの一因であることを彼は知らないだろう。
――いずチャは背がどんどん高くなってっとるな。
――彩は女の子なんだで小っちゃくてもだいじょうだに。
母の実家に帰省すれば必ず孫の背比べをされ、祖母に言われた言葉。
確かに兄は昔から背が高い。別に両親が長身なわけでもないのに一人だけ背が高い。成長期に成長痛に悩まされ、こっそり泣いていたことも知っている。おかげで今は180を越えたスタイルの良い男子になってしまった。一方私は成長期らしい成長期がなく、身長は149cm。今一歩150の大台に乗れないちんちくりんの腐女子だ。
身長(大敗)・足の速さ(負けた)・成績(これだけは勝った)……。年が近いせいか、ありとあらゆるところで兄と私は比較され、負けた要素が増える度、私は兄に劣等感を抱くようになった。別に兄は悪くないのに。私は、兄と会話するとき、言いようのないような劣等感と申し訳なさを感じてしまうのだ。引け目、とでもいうのだろうか。なんだか、私なんかと会話させてごめんなさい、と思ってしまう。
体育館の中、一途にボールを追う兄の姿を部活終わりに見てしまった。いつもの親しみやすさはどこへやら。目がボール一つだけ追いかけて、跳んで、走って、汗を流して。この強豪バレー部の中でレギュラーメンバー入りしている兄を純粋にすごいと思った。それと同時に、少し羨ましいとも。私も部活じゃエース的なポジションにいるが、所詮中堅弁論部。良くて県大会ベスト8止まりだ。全国なんて夢のまた夢。そもそも同じ学区に全国区クラスがいる時点で負けが確定したようなものだと、部員全員が思っている。
じわじわと地力をつけ、全国区までに育ったバレー部で活躍する兄。そんな兄にも弱点があるのではないのか。ほんの少し。ほんの少しでも良い。兄の弱みを握って優越感に浸りたい。そう思い、兄の部屋のドアノブに手をかけた。
青と白を基調としたシンプルな部屋にはバレーボールが転がっている。本棚を見るとそこには月バレと私の貸した漫画が入っている。私の漫画以外は全てバレー関連の本だったり、ジャージだったり、スポーツスパッツだったりが転がっている。
……うわ、こいつマジでバレー漬けだな。
最早ボールが恋人です♡、といったような状態の部屋に若干引いてしまう。ごめんお兄ちゃん。
そう思いながら見上げた本棚の天辺。花の咲いたサボテンがある。
あ。これ。お兄ちゃんの高校進学祝いにあげたやつだ。これなら初心者でも大丈夫だよ、と。まぁ、ちょっとした私の気遣いだ。まだ枯らしてなかっただなんて……。お兄ちゃんも意外と甲斐性あるんだな、と感慨深く思うと共に世話をする兄を想像して少し笑った。
でも今日部屋に侵入したのはサボテンのためじゃない。兄のエロ本を探しに来たのだ。
健全な男子高校生たるもの、アダルトコンテンツの一つや二つ持っているものだろう? それを探しだして、ちょっと兄を揺さぶって、優越感に浸りたい。最近部活で負け通しだから、その鬱憤を兄にぶつけてしまえ、というわけだ。我ながらクズ。
視線をサボテンから本棚へ移す。辞書の中、本棚の裏、ベッドの下……。紙媒体がありそうな場所はすべて探したが出てこない。普通大事な物って紙で持っていたくない? 私がどれだけのBL漫画を持っていることか……。それを思うと紙がないなんてありえないんだけど。
時計を見やる。21:15。兄の部屋に入ったのが10分前。兄の入浴時間は30分。時間がない。デジタル媒体でエロ本探そう。兄は私と違って部屋にパソコンがないから、エロ本があるならスマホのはず。
枕元で充電されているスマホを手に取り、ボタンを押す。4桁のパスワードの入力画面がでる。思い当たる数字を入力すれば、4番のユニフォームを着た兄の後ろ姿にお出迎えされた。うえ、こいつ私の誕生日をパスにするのみならず、自分を待ち受けにしてるのかよ……。きしょ……。
時刻は21:17。兄がここに戻ってくるまであと10分ちょい。兄と私のチキンレースが始まった。
三、
「『【東●林ち●】部屋に/入る●きは/ノックの後に一間/置き●しょうw!オナ●ー家族バレで軽蔑●れるかと思いき/や大きなお●/でお手伝い』『《超美/少女》「私の●液飲/めるんだから嬉しいでしょ?♡」スレンダー/美乳おっ●いワガママSなロリ/JKが女王様みた●にM男に奉仕』」
俺の藍色のスマホを右手に、空いた左手は手持ち無沙汰そうにぶらぶら揺らして、俺のベッドに座る二個下の妹。その妹から発せられるアダルトなワード。しかもそれには覚えがある。なんで、なんでこいつが知ってるんだ。
「ねえ、お兄ちゃん。これどういうこと?」
口を歪に歪ませた妹が俺のスマホを掲げて首をコテンと傾けた。
いやいやいやこれどうすんだよ。なんで彩が俺のスマホ持ってんだよ。しかもパスワードかけたてのに突破されてるし。「お兄ちゃんも年頃だもんねー。AVの一つや二つもってるよね~」じゃねえよ。なんだこれほんと風呂から上がってきたら、部屋に彩がいて、そんで、目の前でAVのタイトル読み上げられて。
心拍数上昇 さっき風呂入ったばっかなのに背中に汗が流れるのがわかる。俺、なんと答える。なにがベストな回答だ。
「友達にさ、勝手にDLされたんだよ。俺のじゃねえから。見てないし」
「履歴に残ってるのに?」
履歴画面を突きつけられる。そこにはきっちりと淫語まみれの動画のURLが刻まれている。
「だからそれはDLされたときに、」
「ブックマークもしてるのに?」
ブックマーク一覧を突きつけられる。ピンク色のサイトの右上にはブックマークを示す青い星が確かに煌いている。
俺、死んだ。心の底から声にならない悲鳴を上げ続けている。なんでバレた。というかなんで彩はパスワード知ってんだよ。ちくしょうパスワード彩の誕生日にしとくんじゃなかった。いやいやそれよりも、バレたやつ1本兄妹の近親物だぞ。これでお兄ちゃんきもいとか思われたらどうすんだよ。なんで近親物とJKのがバレてんだよ……!!!!!
手が震えているのがわかる。これが周りに知れたら家庭内ヒエラルキーがいっぺんに変わってしまう。
「母ちゃんには言わんでくれんかや……」
なんとか声を絞り出す。これ、親にバレたら本格的に死ぬ。俺はこの家では生きて行けない。
「…………いいよ」
そのときのお兄ちゃんは本当に身長が180を越えている男なのだろうかというほどに小さく小さく丸まってうなだれていたと、後に彩に笑われることになることも知らずに。
四、
「『新/人 チ●ポを/吸い込む●キュ/ームケツマ●コ/男の娘~/恥じ●/いながら/●りまくる/逆アナ/ア●ドル降臨! ●/石か●』ねぇ……。ふーんお兄ちゃん男の娘もいけるんだ。へぇ……。アナルねぇ……」
穴ならなんでも良いってか。
私は兄のスマホをスクロールする。出るわ出るわ。淫語のオンパレード。
「もう勘弁してください。お願いします……」
ベッドの上に腰を下ろし脚を組む妹と床で土下座する兄。どっちが部屋の主かわかったもんじゃない。
「アナルはさ、別に女の人がやっても気持ち良くないらしいよ。前立腺ないし」
だからお兄ちゃんも彼女できたときやっちゃダメだよ。そう言いながら、俺の方をポンと二回叩き部屋を去って行く妹。あいつ、なにが目的だったんだ……?
とりあえずバスワードを変更して、あらゆるアプリにロックをかけた。
「♪~♪~~♪」
鼻歌を歌いながら兄の部屋を出てパソコンに向かう。人は秘密が暴かれたとき、顔を青くさせ目を泳がせるらしい。兄の弱点を知りたいがために始めたアダルトコンテンツ探しだが、予想以上に良い結果になった。衰弱、とまではいかないが、弱った兄という貴重な生き物まで見れたわけだし。
――これを活かさないわけないでしょ。
次の新刊は持ってるAVがバレた受けがメインの話だね♡♡♡♡